ASDは話の“重要ポイント”を見失ってしまうのはどうしてなのか
しっかりと話を聞かないといけない状況で起こる問題とは
ASDのわたしには、とにかく日常的なあらゆる場面において、耳からだけ聞く内容は理解することにとても時間がかかる上に、すぐに忘れてしまうことが、本当に多くあります。ちなみにわたしは診断されてはいませんが、あまりにも酷い場合は、聴覚情報処理障害(APD)の診断が下りることもあると思います。
ただ今回は、そうであってもそうでなくても、どのような状態のことを指すのか、ということにいてお伝えしていきたいと思います。
わたしの聞き取りが困難な部分に関係する特性としては
- 視覚優位で聴覚劣位
- 長期記憶は得意だけど短期記憶が苦手
というものだと思います。このことだけが原因ではありませんが、大きく関わっている部分ではあると思っています。しかもその差は大きいものであって、そして生まれつきであるが故に、努力で耳からだけの情報を素早く処理して記憶する、ということは出来ません。
実はこのことが原因で起こる困りごとがあります。それというのが
話されている内容の重要ポイントを見失う
というものです。例えば、仕事の打ち合わせ、会議、病院の先生からの話、講習会、このような“しっかりと話を聞いていなくてはいけない”という場面で、主役となる人が話している内容のどのポイントが重要なのか、というところがわからなくなってしまうのです。
話を必死で聞きながら、そして顔をあげて主役の様子を見ながら、人が多くいるような場面で後ろの席なんかに座った時は最悪で、周囲の微かであってもその声が入ってくる、そして様子までも伺ってしまう、その状態でポイントだと思うことを必死でメモする。この時点で既に、耳からだけの情報で困難さを極めている上に、ASDが大の苦手とする、マルチタスク状態にも陥っています。その結果
(どうしてこんなことをメモしたんだろう…もっと大事なことを言っていた気がするけど、思い出せない…)
という問題が頻繁に起こっていました。
重要ポイントを見失う時、具体的にどういう状態なのか
ASDの多くは、とても真面目なところがあるために
- 大事な場面での話はしっかりと聞いていないといけない
- どこが重要なのかも見落としてはいけない
そう思いながら取り組もうとします。ただ実際、話が始まるとどういう状態になってしまうかというと
一語一句、話される全てが重要だと感じてしまいます
スタートを切った時点から流れるように降りかかる内容を受け取る状態になり、しかも全てが重要だと思うからこそ更に、一つずつの内容にこだわり、情報を必死で処理していこうとします。ただ、処理するといっても、そもそも耳からだけの情報の処理が弱い為に時間がかかりすぎてしまい、気づけばどんどん話から置いていかれる…という状態に陥ります。
それでも次から次へとやってくる重要だと思うポイントに追われ、そのことで今、目の前にある重要ポイントに集中できなくなり、結果的にカオスな状態でメモを必死で取るも、意味不明なメモとして終わってしまうのです。
メモの意味が自分でも理解できない上に、どこが重要だったのか、何を話していたのかも忘れてしまっている…そんな自分にがっかりしたり、仕事でこのようなことが起これば、話を聞いていなかったかのような扱いを受けてしまうこともあります。
学生の頃の対策が社会人になってから難しくなったのは
わたしは自分でも、とにかく耳からだけ聞く話は苦手で、すぐに忘れてしまうことは学生の頃から自覚していました。そんな学生時代にわたしが授業でとっていた方法というのが
先生の話す内容のほぼ全てをノートに書き写す
というものでした。まるで写経のように、重要ポイントということに意識を向けないくらい、話していることを書き続けていく、というものです。そして家に帰ってからノートを見直し、たくさん書かれている中から、重要だと思うポイントを見つけていました。
ただ、学生の頃は通用していたこの方法が、社会人になってからは難しくなりました。というのも
社会人になってからは、相手から話される内容を、相手をほぼ無視した状態で顔を見ることもせずに、ただ書き殴る、ということは出来なかったからです
話している相手の顔もたまには見ないといけない、聞いていますと見てわかるような振りも、相槌や返事も間に挟まないといけない、この状況では無理だったのです。
ASDならではの対処方法で乗り切る、その対策方法とは
そんなわたしが社会人になってから、この方法はよかったと実践したものと、その他にも、なんとか乗り切れる対策方法をいくつか挙げてみたいと思います。
実践したものとしては
- ボイスレコーダー
- わたし以外の人のメモを見せてもらう
というものです。ボイスレコーダーは実践している方も多いと思います。聞き逃しても後でゆっくり確認出来るので、とても役立ちます。
そして、わたし以外の人のメモを見せてもらう、というのは、実は同じ講習をわたしのパートナーと一緒に参加した時に実践したものです。わたしが書くメモの内容とは全く違った視点の内容が書かれていることから
講習が終わってからパートナーのメモを見せてもらうことで記憶を取り戻し、そして重要ポイントを見せてもらったメモから発見できたりしたのです
大事なのは、自分一人ではどうにも出来ないと分かったら、“頼れる協力者や自分に合った道具をみつけ、具体的な対策を取る”ということと、“自分一人でなんとかしようとするのではなく、援助してもらうことも視野に入れておく”ということだと思っています。
ではここからはその他の対策方法についてです。ここでも基本は、援助という形の具体策として挙げます。
- 話を口頭だけで進めるのではなく、事前に内容について要点をまとめたプリントを用意してもらう
- 話す内容をできるだけ簡略化してもらう
このように、視覚からでも確認しやすい方法を取ってもらう、そして聴覚からの情報をなるべく少なくする、というものです。
ASDは他人にお願いすることや相談することが苦手な人が多いと思います。それでも、これまでに何度も話の重要ポイントを見失っては自分を責めたり、ストレスの原因になっていたのであれば、もっと自分に正直になり、出来ないことを努力でなんとかしようとしたり、一人で抱え込んでしまわずに
協力という形で他人にお願いする
自分に合った物理的な方法を見つける
という対策で乗り切ってもいいと思っています。話の重要ポイントを見失わないために、ASDにとって大切なのは
最後に
ここでは、わたしがASDと診断されてからになりますが、ASDのわたしが驚いた、それまでで一番理解しやすかった“話し方”についてお伝えしたいと思います。
実はそのことを実践してくれていたのは、わたしの主治医の先生なのです
先生の診察室には、わたしが座る席の前に、大きめのスクリーンが用意されています。そのスクリーンには、わたしと先生が話す内容を、先生自身が要点だと思う部分をその場でパソコンから打ち込み、リアルタイムで文字の映像として写し出され、視覚で確認することが出来るのです。
診察の間は、わたしはほぼほぼスクリーンを見ながら先生と会話をしています。それでも、その方法がわたしにとって、一番理解しやすい方法だと分かってくれているからこそ、先生は何も言わずに、会話をパソコンで打ち込みながら進めてくれます。
しかも帰る時には、内容を打ち込んだものを、後でも確認出来るようにプリントアウトして渡してくれるのです。最初にこの方法を経験した時は、ちょっとした感動でもありました。先生が取ってくれている方法は、常にどんな場面でも可能な方法ではないと分かっていますが、その時の会話の仕方はASDのわたしにとって
ストレスが全くない、無理をして気を使う必要もない、自然なままのわたしでいられることがこれほどまでに心地の良いものなのかと、実感できたものでした
ASDにとって、自分に正直に、自分のままでいる、ということはとても大切です。その方がストレスなく生きれます。ただ、そのことがまだまだ難しい自分がいたとしても、少しづつでも自分のままでいられる対人関係、環境を選択していけば、ASDの自分らしく生きていくことは出来ると思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
*わたしが書いている内容は、ASD当事者であるわたし自身の経験が基です。発達障害は一人一人、特性は同じではありません。ですので、全てのASDやADHDの方にそうだとは言い切れませんので、その部分はご了承下さいませ。
*画像はhttps://unsplash.com/を使用しています。
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