ASDにとって“無駄な時間”こそが“必要な時間”
ASDにとって外の世界は忙しすぎる
ASDのわたしは仕事をしていた頃、とにかく毎日思っていたことがあります。それというのが
早く家に帰りたい…
早く一人になりたい…
というものでした。どうしてこんな事を、しかも毎日のように思っていたのかというと、それは決してその頃の仕事に毎日のようにトラブルがあったという訳でも、上司からパワハラのようなことを受けていたという訳でもありません。これといって目立った、ストレスを抱えるようなことがなくても思っていたのです。
ただもちろん、理由がない訳ではありません。その頃のわたしには、早く帰りたいことも早く一人になりたいことも、感覚でしかありませんでしたが、今はその理由がよくわかります。その理由というのがASDの特性からきていた
- 感覚過敏からくる刺激に、仕事の間ずっと耐えていた
- 苦手なチームワークの中で、さらに苦手な上辺だけの対人関係に疲れ切っていた
というものです。ASDにとっては一歩外の世界に出るだけで、周りから見れば普通に生活しているだけのように見えてもASDの内側を覗くと、特性を刺激され続ける忙しすぎる外の世界に、毎日のように疲れ切っているのです。
労働時間が長いことがどうして問題だったのか
わたしはASDの特性からくるものに加え、労働時間が長かった、ということもわたしには問題でした。
労働時間が長すぎるとどうして問題なのか、というところでも理由ははっきりとあります。ただ、仕事自体が自分の好きなことで、その事を楽しめるというASDの方にとっては問題にはなりにくいと思います。仕事が自分のやりたいことでも、そんなに好きなことでもない、という状況で起凝ってしまいがちな問題です。
わたしが社員として仕事をしていた頃は12時間労働が当たり前の毎日でした。それに加え、通勤時間も入れると14時間ほど、しかも休みは月に4回という今でいうブラックな職場だったと思います。そうすると必然的に“自分だけの時間”の割合は減ります。このことでどういう問題が起こってくるのかというと
素の自分に戻って疲れた体や頭をリセットすることができなくなってしまうのです
実はこの“素の自分に戻る”そして一日の疲れを“リセットする”ということは、ASDにとってとても重要だと思っています。
素の自分に戻れる時間というのは、やっと誰にも邪魔されずに好きなことができる時間です。その内容は人それぞれだと思いますが、わたしの場合だと映画を見たり、漫画や本を読んだり、好きなスピーカーで音楽を聴いたり、その時間をダラダラと過ごすことでした。
このなんでもない時間、無駄だと思えるような時間を過ごすことこそが、ASDのわたしにとってはメンタルヘルスを安定に保つ為のお薬のような時間だったのです
ただ、労働時間が長いとどうしても必要な“無駄な時間”を、起きている間に取ることが難しくなります。そうなるとどういう行動に出てしまうのかというと
無駄な時間を削るのではなく睡眠時間を削ってまで好きな時間を過ごしてしまうのです
「明日も仕事だから、好きな事をしたいけど早めに寝よう…」という意識では動きません。その結果、毎日のように2〜3時間の睡眠で仕事に行くことになります。酷い時には1時間〜30分という日もありました。もともと体もそれほど強くないわたしでしたので、体を壊してしまうことは明らかでした。睡眠の他にも、食事を削る、お風呂を削る、という身の回りのことを削ってしまう方もいます。
わたし以外の人が同じ労働時間でも体調やメンタルヘルスを壊さずに仕事を続けられていたのは、自分の好きな時間を削り、帰ったらすぐ寝る、というように睡眠時間を優先して過ごせていたからなのです。わたしにはどうしても、無駄だと思えるような時間であっても、そのことの方を削ることが難しかったのです。
“無駄な時間”は削れないからこそ環境を整える
ASDにとって“無駄な時間”だと思える時間こそが“必要な時間”です
そして“無駄な時間”は必要で、削ることが難しいからこそ、無理をして削り過ぎてしまうと体調やメンタルに直接影響を及ぼします。このことからも大切なのは
その上で必要であれば、その時間を健康的に確保するために環境を変えてしまう、というのも一つの方法だと思っています。環境を変えると言っても、いろんな選択肢があると思いますが、実際わたしがとった方法というのは、社員をやめて定時で上がれるアルバイトを選択し、自分の時間を確保する、というものでした。当時はそのことで体調もメンタルも落ち続けてしまう事はなくなり、かなりとは言い切れないかもしれませんが、回復には向かいました。
仕事に支障が出ないほどの睡眠時間や、身の回りのことでも他人に迷惑にならない程度のものであれば、それは上手く時間を確保できている、と言えると思います。ただ、明らかに体調が悪くなったり仕事に支障をきたすようであれば、ちょっと立ち止まり
周りから見れば“無駄な時間”だと思われるような時間であったとしても、その時間の重要性を見直し、無駄だからこそ必要な時間の確保と、体調そしてメンタルヘルスを整えることを中心とした環境に近づけていくことが大切だと思います
ASDは真面目すぎる人が多いからこそ、要求されたこと、頼まれたこと、責任があることに対しては一生懸命に、それこそ自分の時間を削ってまで取り組んでしまう人がほとんどです。ただ、そのことで本当に必要な自分の為の時間をうまく確保できず、自分が壊れてしまってはやりすぎなのです。
自分の為に時間を作ることで、そしてその環境を作っておくことで、結果的には自分だけではなく周囲との関係性が良くなったり、仕事が捗ったりすることもあると思います。その為にも
ASDの自分にとって無駄なストレスからなるべく逃れられる“楽なスタイル”とはどういうものなのか
というところに目を向けていって欲しいと思っています。
最後に
わたしはASDだと自覚がなかった頃に、「パティシエとして社員には絶対ならない、アルバイトでいく」と決心し、選択をしたのは30歳になってからでした。その頃にやっと
- わたしにはどうしても自分だけの時間が必要なんだ
- ここを確保できる働き方をしないといけない
そう理解したのです。ただ、19歳から働き始めてから30歳になるまで11年間、ずっとこの事実に目を向けることなく、我慢し続けた生活を送ってしまっていたのです。アルバイトになってから少しは楽になったものの、その頃すでに抱えていた二次障害がなくなる訳ではありませんでした。
我慢してしまっていた理由には、過剰適応やASDだと自覚がなかった事は大きかったと思います
自分に合ったスタイルが自分にとっての普通なのです。わたしは自分自身の経験からもASDの方、そして診断されていなくてもASD傾向があると分かっている方は、自分に何か辛いと感じているものはないか、我慢していることはないかを一般常識的な意識を外した視点で、自分の時間を削り過ぎていないかを、定期的にでも見直してみて欲しいと思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
*わたしが書いている内容は、ASD当事者であるわたし自身の経験が基です。発達障害は一人一人、特性は同じではありません。ですので、全てのASDやADHDの方にそうだとは言い切れませんので、その部分はご了承下さいませ。
*画像はhttps://unsplash.com/というFree素材を使用しています。
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